生命保険の必要性を考える:50歳までに死ぬ確率は3%である
日本では8割くらいの人が生命保険(死亡保険)に加入しています。自分に万が一のことがあったときに家族にお金を残せるので、数ある保険のなかでも生命保険の必要性は高いです。
それでは、その「万が一」とはどれくらいの確率なのでしょうか? 本当に1万分の1というわけではありませんが、その確率が低ければ生命保険は必要ないかもしれません。
生命保険に加入するにあたり、「死ぬ確率」を把握しておくことはとても重要です。人間であればいつかは死ぬので、厳密にいうと死ぬ確率は100%になりますが、考えなければならないのは「保険金が必要となる時期に死ぬ確率」です。その確率を把握した上で、加入する生命保険を決めるようにしましょう。
生命保険の仕組み
はじめに生命保険の仕組みについておさらいしておきましょう。
生命保険は「加入者(被保険者)が死亡した場合、受取人に保険金が支払われる」という仕組みになっています。そして、受取人は加入者の家族である場合が多いです。
支払われる保険金額は契約内容によって異なります。基本的には、死亡したときに支払われる保険金が大きくなるほど、保険料(掛け金)も大きくなります。
また、生命保険で保険金が支払われるのは死亡時だけではありません。高度障害になったときも支払いの対象になるのです。
高度障害とは「回復しようがない重篤な障害」のことです。例えば、「失語状態」や「神経系疾患を患い、死ぬまで介護が必要な状態」などが高度障害に該当します。
高度障害は死亡に近い状態とみなされるため、医療保険ではなく生命保険の対象になるのです。
保険金が必要になるのは「子どもが自立するまで」である
続いて「保険金が必要になる時期」について説明していきます。
結論からいうと、保険金が必要になるのは「子どもが自立するまで」です。子どもが自立するまでは生活費や教育費がかかりますが、自立すれば子どもは自分で稼ぐようになります。つまり、子どもに保険金を残す必要はなくなります。
そのため、生命保険に加入するときは子どもが自立するまでに必要となる生活費や教育費を計算しておく必要があります。家庭によってバラつきがあるので一概にはいえませんが、子どもが成人になるまでの生活費と教育費を合わせると3,000万円ほどかかるといわれています。
生活費や教育費などを計算し、夫(もしくは妻)が亡くなっても対応できるくらいの補償を組んでおいてください。
また、子どもだけでなく妻(もしくは夫)の老後のためにも保険金を残した方がよいです。ただ、子どもが自立する頃にはある程度の貯蓄を持っていることが多いです。そして、老後になれば、年金を受け取ることができます。さらに、夫(もしくは妻)が会社員であった場合、会社から死亡退職金が支払われます。
そのため、子どもが自立した後は、妻(もしくは夫)に残す保険金は必要最低限で十分です。貯蓄や年金、死亡退職金で妻(もしくは夫)の老後の生活を賄えるのであれば、生命保険をかけなくてもよいのです。
このように、生命保険に加入するときは「子どもにどれくらいのお金を残す必要があるか」ということを考えることが大切になります。子どもの成長に合わせて、経時的に保険金額が少なくなっていく生命保険もあるので、補償内容をよく吟味するようにしましょう。
人が50歳までに死ぬ確率は3%である
ここまでの説明で、生命保険が必要になる時期について理解できたと思います。それでは次に、その時期に死ぬ確率について具体例を用いて説明していきます。
今回はとある家族の父親が生命保険に加入したケースを考えていきます。生命保険に入るタイミングは人それぞれですが、このケースを理解できれば、自分の状況にも応用して考えることができます。
父(30歳):会社員
母(28歳):専業主婦
子ども(4歳)
子ども(2歳)
この家庭の場合、父親が50歳になれば子どもが2人とも社会人になり、その後は面倒をみなくてもよくなります(大学院への進学などのケースは割愛します)。
ということは、「父が50歳まで生きれば生命保険は必要ない」ということになります。そして、30歳の男性が50歳までに死ぬ確率はわずか3%です。そのうち、1/3は自殺で死亡しているので、事故や病気で死ぬ確率は2%になります。
引用元:厚生労働省
※ 上図のとおり「0歳の男性が50歳までに死ぬ確率」も「30歳の男性が50歳までに死ぬ確率」とほぼ同じです。また、男性よりは若干低くなりますが、50歳までで見ると女性も同程度の確率です。そのため、「人が50歳までに死ぬ確率は3%」と覚えておきましょう。
死亡する確率が3%しかないなら、高額は生命保険に入る必要はありません。万が一に備えるにしても、必要最低限の保険で十分でしょう。
自殺には免責期間が存在する
前述のとおり、自殺で亡くなる人もいます。「自殺で死亡したら保険金がおりないのでは?」と思う人もいるかもしれませんが、基本的には自殺でも保険金は支払われます。ただ、なかには保険金が支払われないケースもあります。
それは、免責期間内の場合です。免責期間とは「保証の対象とならない期間」のことです。自殺には免責期間が存在し、その期間は加入後1〜3年である場合が多いです。
極端な言い方をすると、自殺はいつでもできます。保険に加入した次の日に自殺する人もいるかもしれません。「自殺して家族に保険金を残そう」と考えて自殺されてはたまりません。保険金を目的とした自殺を防ぐためにも、免責期間は必要なのです。
ただ、例外として免責期間内でも支払いの対象となる場合があります。それは精神障害による自殺です。このような場合は病死と判定されることもあり、免責期間内であっても保険金が支払われる可能性があります。
また、免責期間を過ぎても、告知義務に違反した場合(例:精神病と診断されたのに、それを隠して保険に加入した)や犯罪行為に手を染めていたことが分かった場合は、保険金は支払われません。
遺族年金が生命保険の代わりになる
父親が若くして亡くなってしまったら、その家庭の収入が途絶えることになります。もしそのような状況になっても、残された家族が生きていくにはたくさんのお金が必要になります。50歳までに死ぬ確率が3%しかないとはいえ、その確率を無視するわけにもいきません。
仮に先ほどのケースで父親が30歳で死んでしまったら、母親と子ども2人が残されることになります。前述のとおり、子どもが成人になるまでの生活費と教育費を合わせると3,000万円ほどかかります。この家庭であれば、子どもが2人いるので6,000万円ものお金が必要になります。
この金額を見ると多額の保険金が必要に思えますが、焦って高額な保険に加入するのは禁物です。
なぜなら、日本には「遺族年金」があるからです。遺族年金は「年金保険料を払っている人が死亡したときに、遺族に年金が支払われる」という年金制度です。一見すると保険と関係ないように見えますが、「死亡した場合に、残された家族にお金が支払われる」という仕組みは生命保険と同じです。
今回のケースでは、年間170万円ほどの遺族年金が支払われる計算になります(計算方法は割愛します)。その後、受給額は変動しますが、20年間で約2,600万円が支払われることになります。
また、この父親は会社員なので、残された家族は死亡退職金をもらうことができます。
そして、父親が亡くなっても、母親が働くことができます。仮にパートとして働き、年間240万円を稼いだ場合、20年間で4,800万円になります。子育てをしながら働くのは容易なことではありませんが、何とか収入を得ることはできます。
このように、遺族年金や死亡退職金、母親(もしくは父親)の収入などがあることを考えると、高額な保険は必要ないことが分かります。
まとめ
・保険金が必要になるのは「子どもが自立するまで」である。そのため、生命保険に加入するときは子どもが自立するまでに必要となる生活費や教育費を計算しておく必要がある。
・人が50歳までに死ぬ確率は3%である(病気、事故など:2% 自殺:1%)。
・「遺族年金」が生命保険の代わりになる。そして、遺族年金や死亡退職金、母親(もしくは父親)の収入があることを考えると、高額な生命保険に加入する必要はない。
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