宙に浮いた年金記録と基礎年金番号制度の関係
日本の年金制度を大きく揺るがしたのが、「宙に浮いた年金記録問題」です。所在不明の年金記録が5千万件以上も存在することが発覚したのです。
これは「年金保険料は納付されているが、誰の記録か分からない」ということです。もし自分の年金記録がなくなってしまったら、老齢年金などが支給されなくなる可能性があります。そうなってしまっては納得できるはずがありません。
万が一にも自分が被害者にならないために、まずは年金記録問題の概要を理解しておく必要があります。
そこで今回は「宙に浮いた年金記録」について解説していきます。また、このような問題が発生してしまった原因である「基礎年金番号制度」についても説明していきます。日本の年金制度における大事件が、どのようにして起こったのかを把握しておきましょう。
もくじ
1、基礎年金番号制度の基礎知識
2、宙に浮いた年金記録が発生した原因
3、半数近くの年金記録は解明されていない
4、まとめ
基礎年金番号制度の基礎知識
原則として20歳以上のすべての国民は公的年金に加入しなければなりません。そして、公的年金に加入すると「年金番号」を与えられます。私たちの年金は、その番号で管理されているのです。
以前は転職して加入する年金制度が変わると、新たな年金番号が与えられました。例えば、自営業からサラリーマンに転職したケースです。この場合は「国民年金」に加えて、「厚生年金」にも加入することになるため、新たな年金番号を与えられていたのです。
また、結婚した場合も新たな年金番号が付与されていました。
このような仕組みになっていたため、複数の年金番号を持っている人がいたのです。一時は3億件以上もの年金番号が存在していました。
ただ、これでは管理が複雑になってしまいます。そこで、1人につき1つの年金番号に統合することになりました。
これが、1997年に施行された「基礎年金番号制度」です。この制度が始まったことにより、年金番号の正確な管理ができるようになるはずでした。
ところが、この基礎年金番号制度の導入が、年金記録が消えた原因となってしまったのです。
宙に浮いた年金記録が発生した原因
基礎年金番号制度の導入における年金番号の統合は、人の手によって行われました。社会保険庁の職員が3億件を超える年金番号の統合作業を行っていたのです。
当時のシステムは人の名前をカタカナで打ち込むようになっていたので、このタイミングで入力ミスが起こりました。なぜなら、人の名前にはさまざまな読み方があるからです。
例えば、錦織であれば「ニシコリ」とも「ニシキオリ」とも「ニシゴオリ」とも読めます。また、東海林であれば「ショウジ」とも「トウカリイン」とも読めます。
本来であれば読み仮名をしっかりと確認してから入力するべきですが、ずさんな管理体制のまま、統合作業が進んでしまいました。
その結果、未統合の年金記録が5千万件以上も残ってしまいました。年金保険料の納付記録は残っていても、「誰が払ったのか」が分からなくなってしまったのです。
さらに、年金番号の統合ミスだけでなく、「入力漏れ」があったことも発覚しました。入力されていない年金番号が1千万件以上も残っていたのです。
このような人為的なミスにより、とてつもない数の年金記録が宙に浮いてしまったのです。
半数近くの年金記録は解明されていない
年金記録問題の発覚後、社会保険庁は解体されました。その後、日本年金機構が設立され、年金記録の解明作業を行うことになったのです。
日本年金機構は8年という長い年月をかけて、宙に浮いた年金記録の半分以上を解明しました。しかし、半分近くの年金記録はいまだに所在が分かっていません。
そのような状況にも関わらず、日本年金機構はすでに解明作業を終えています。そのため、半数近くの年金記録はこのまま放置されることになります。
解明されていない年金記録は受給条件を満たしていなかったり、本人がすでに死亡していたりするケースが多いといわれています。つまり、年金の支給対象にならない記録なのです。
しかし、本当に支給対象にならないと証明されたわけではありません。「解明できていないが、おそらく支給対象にならないはずだ」という見解なのです。結局のところ、真実は誰にも分からないのです。
いずれにしろ解明作業は終わっているので、支給対象になる記録が残っていても、誰にも気付かれないまま消えていきます。
万が一、自分の年金記録が解明されていなければ、老後に受給できる年金が少なくなったり、支給されなかったりする可能性があります。
そのような事態を避けるためには、誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」を確認する必要があります。ねんきん定期便には加入履歴が記載されているので、もし間違いがあった場合は自分で申告しなければならないのです。
特に「1965年以前に年金保険料を納め始めた記録」や「加入期間が5年未満の記録」は宙に浮いた年金記録に該当している可能性があると、政府が公言したことがあります。
以上のように、年金記録問題に関しては国のミスを私たち国民がフォローしなければならない状況になっています。老後に年金を受給するためにも、念のため自分の年金記録を確認しておくことをおすすめします。
まとめ
・原則として20歳以上のすべての国民は公的年金に加入しなければならない。そして、公的年金に加入すると「年金番号」を与えられる。
・ずさんな管理体制のまま年金番号の統合作業が行われていたため、未統合の年金記録が5千万件以上も残ってしまった。
・現在でも半分近くの年金記録の所在が分かっていない。それにも関わらず日本年金機構はすでに解明作業を終えている。
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